はじめに

「言葉の壁があって、うまく指示が伝わらない」「大事な申し送りが、正確に伝わっているか不安」。外国人介護職員と一緒に働く現場が増える中、こうした悩みを感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、外国人介護職員とのコミュニケーションに、AIをどう活用できるのかをお伝えします。言葉の壁を少しでも小さくし、共に働きやすい職場をつくるヒントにしていただけたらうれしいです。
介護現場における外国人材の広がり
介護現場で働く外国人材は、年々増加しています。技能実習や特定技能、EPA(経済連携協定)による受け入れなど、さまざまな制度を通じて、多くの外国人介護職員が現場で活躍しています。人手不足が深刻な介護業界にとって、多様な人材の確保は欠かせない取り組みの一つです。
一方で、言葉の壁は、外国人介護職員が働くうえで大きな課題の一つとされています。日常会話はできても、介護記録に使われる専門用語や、利用者さんの微妙な体調変化を伝える言い回しなど、専門性の高い日本語の理解には、時間がかかることも少なくありません。こうした課題に対して、AIによる多言語対応が、解決策の一つとして期待されています。
AIで実現できる多言語対応の具体例
実際に、外国人介護職員向けの多言語対応機能を備えたAIサービスも登場しています。ある介護書類作成支援サービスでは、外国人介護職員向けに、母国語で書かれた記録を日本語へ変換する機能が備わっていると紹介されています。母国語で考えたことを、そのまま日本語の記録として整えられれば、日本語での文章作成に不慣れな職員の負担を、大きく減らすことができます。
また、汎用の生成AIであるChatGPTも、翻訳機能を備えており、日本語で書かれたマニュアルや申し送り事項を、職員の母国語に翻訳するという使い方ができます。逆に、外国人職員が母国語で伝えたい内容を、日本語の丁寧な表現に翻訳してもらうことで、日々のコミュニケーションの助けにすることもできます。
こうしたAI翻訳を、朝礼での連絡事項の共有や、研修資料の多言語化に活用することで、外国人介護職員が、より安心して業務に取り組める環境づくりにつなげることができます。
AI翻訳を使うときに気をつけたいこと
便利なAI翻訳ですが、介護の現場で使う際には、いくつか気をつけたい点があります。まず、介護の専門用語や、微妙なニュアンスを含む表現は、AI翻訳でも完全に正確に訳せるとは限らないということです。特に、利用者さんの体調に関わる重要な申し送りについては、AI翻訳の結果をそのまま信じるのではなく、可能であれば日本語がわかる職員が内容を確認するなど、二重のチェック体制を整えることが望ましいでしょう。
また、AI翻訳はあくまで「言葉の壁を小さくする道具」であり、コミュニケーションそのものを完全に代替するものではありません。翻訳された言葉だけに頼るのではなく、表情やジェスチャーを交えた対話や、日々の関わりを通じて信頼関係を築いていくことも、引き続き大切にしていただきたいポイントです。
そして、利用者さんの個人情報を含む内容を翻訳する際は、一般向けの生成AIに氏名などをそのまま入力しないよう注意してください。個人情報保護委員会の注意喚起でも、個人情報を扱う事業者が生成AIにプロンプトとして個人情報を入力する場合には、利用目的にあった範囲かどうかを十分確認するよう求められています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」、2023年6月2日公表、https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf)。
私も同業の知人が働く施設に、技能実習生として来日したばかりの職員が配属されたときの話を聞いたことがあります。日常会話はある程度できても、「褥瘡(じょくそう)」や「拘縮(こうしゅく)」といった介護特有の言葉が伝わらず、申し送りのたびに、身振り手振りを交えながら、何度も同じ説明を繰り返していたそうです。あるとき、緊急性の低い連絡だったにもかかわらず、言葉が正確に伝わらなかったことで、その職員が必要以上に不安な顔をしてしまい、「大丈夫、大丈夫」と繰り返し伝えて安心してもらうまでに、思った以上の時間がかかったと話していました。その知人は、「もっと早くから、翻訳ツールを使って専門用語だけでも整理しておけばよかった」と振り返っていました。言葉の壁は、業務の効率だけでなく、一緒に働く職員の安心感にも直結するのだと、その話を聞いて改めて感じました。
よくある質問(Q&A)
Q1.AI翻訳を使えば、日本語研修は必要なくなりますか?
いいえ、そうではありません。AI翻訳はあくまで補助的な道具であり、日本語でのコミュニケーション能力を身につけることは、外国人介護職員自身のキャリアにとっても大切なことです。研修とAI翻訳を組み合わせて活用することをおすすめします。
Q2.介護の専門用語も、AI翻訳で正確に伝わりますか?
専門用語や微妙なニュアンスについては、誤訳のリスクもゼロではありません。特に重要な申し送りについては、AI翻訳の結果を過信せず、必要に応じて日本語がわかる職員による確認を行うようにしてください。
Q3.外国人介護職員とのコミュニケーションで、AI翻訳以外に大切なことはありますか?
表情やジェスチャーを交えた対話、日々のちょっとした声かけなど、言葉以外のコミュニケーションも大切にしてください。AI翻訳はあくまで、信頼関係づくりを支える道具の一つとして活用するのがおすすめです。
まとめ
今回は、外国人介護職員とのコミュニケーションにおけるAI活用について、多言語対応の可能性をお伝えしてきました。
- 介護現場における外国人材の受け入れは年々広がっていること
- 専用サービスの多言語変換機能や、ChatGPTの翻訳機能が活用できること
- 専門用語や重要な申し送りは、AI翻訳を過信せず二重チェックが望ましいこと
- AI翻訳は言葉の壁を小さくする道具であり、日々の対話や信頼関係づくりも大切にすること
言葉の違いを超えて、共に働く仲間として支え合うために、AIという道具を上手に取り入れていってくださいね。
参考文献・引用元
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf



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